ルイビトン偽者
null
null 盆地である京都は暑い。わけても暑い夜だった。保郎はマックナイト宣教師を思い、一人あとに残された夫人のメェリーを思って、眠れぬままに床の中で祈っていた。傍らの和子もまた、マックナイト師の召天を思って、心を痛めているのか、先ほどから幾度も寝返りを打っている。祈っているうちに、保郎はいつしか眠りに引き入れられたが、どれほども経たぬうちに、 「あんた、起きて、起きて」  と、和子に肩をゆすられた。 「何や、折角寝入ったところを」  和子は声をひそめて、 「誰かその辺にいるみたいやわ」 「誰かその辺に?」 「うん、その辺を歩きまわっている足音がしたもん。泥棒かも知れへんわ」 「泥棒? かまわんかまわん。教会に入ったかて、盗むものなど何もあらへん」 「けど……昨日おろした貯金、事務室の机に置いたんとちがう? ……ほら、何か音がしたやろ」  保郎はがばと身を起こし、 「そうや! 明日保母たちにやる給料が……しもうた!」  とあわてた。 「あんた、ちょっと見て来たら。うちも行くわ」 「けど、和子、何ぞ凶器持っとるかも知れへんで」  怖《お》じみそと言われた保郎は度胸のあるほうではない。 「あんた、ほら、竹刀があったやないの」 「え? 竹刀で殴れ言うのか。いややなあ」