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2015-01-23 23:23    財布 メンズ
 と、砂利道に屈んで考えた。何だか嘘《うそ》のような気がした。一方、本当のような気もした。万一、拾ったために母が死んでは大変だと、恐れる気持ちもあった。だがその日の私は、何としても赤い石を拾ってみたかった。赤い石の呪《じゆ》縛《ばく》から逃れたかったのだ。それに赤い石は、自分の宝物にするのに大いに魅力のある石であった。私は思い切って、その石をしっかと握った。握ったまま私は、玄関から家に飛びこんだ。 (母さんが死んだだろうか)  恐れと緊張で、激しく動《どう》悸《き》がした。  茶の間の障子をあけると、母は弟に乳房をふくませながら新聞を読んでいた。 (生きていた!)  安心と同時に気ぬけがした。私はこの時以後、赤い石の呪縛から完全に解き放たれた。  小学校の高学年になって、何かのことでこのことを思い出した時、私は不意に自己嫌悪に駆られた。あの年齢では、赤い石を恐れていたほうが子供らしいというものではないか。母が死ぬかも知れないことは、どんなことがあっても出来ない子供であったほうが、愛らしいのではないか。そう私は思ったのであった。 4  うす暗い、何の装置もない舞台に一人の女の子が坐っている。その女の子にだけ、あまり明るくないスポットライトが当たっている。そんな情景に似た思い出が私の幼い頃にある。周囲には父母も、兄や姉たちも、そして二つ年下の弟もいた筈なのだが、私の記憶には、姿としては誰一人として浮かんでこないのだ。ただその夜の言葉にだけ記憶がある。私はその時、数えで五歳だった。ストーブがあたたかく燃えている。そのストーブ台の上を、私は炉《ろ》箒《ぼうき》で掃いていた。視覚的にはただそれだけの思い出なのだ。が、ストーブ台の上を掃いている私の気持ちは、それまで味わったことのない気持ちであった。  その夜は、家の中がひっそりとしていた。みんな足音さえしのばせて歩いているようだった。誰もが黙っていた。今考えると、十八歳、十七歳、十五歳、十二歳、八歳、五歳、三歳と、これだけの子供のほかに、両親がいたのだから、実際はこんなに森閑としていたか、どうかはわからない。だが私は、自分一人だけが心をこめて炉箒を動かしていたように思われて、他の人の動きの記憶はないのだ。五歳の子供に、厳粛という言葉は知る筈がない。が、その時私が感じたのは、まさに厳粛そのものであった。 「天皇がおかくれになった」  誰かがささやくように誰かに言った。 「天皇さまがおかくれになった」  また誰かが誰かに言った。幾度も幾度も「天皇さまがおかくれになった」という言葉が私の耳に聞こえた。 (てんのうさまって、だれだろう?)  だが、みんなは知っているらしい。食事の時間になっても食事をした記憶がない。