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ヴィトンタイガセカンドバッグ編集

 太兵衛が死んでからまだ一年余りしかたっていない。かわったことがあればまだ人々の記憶にのこっているはずだ。 「おとよのまわりには得体の知れぬ男の影がうろうろしてるようですが、ころしにつながるようなことは噂にのぼっていませんね」 「丹念にさぐっていけば、でてくるとおもうよ。きっとなにかでてくるはずだ」 「わたしもそんな気がしています」 「ころしのネタをつかむのが、この取りたてのいちばんの近道だよ。あたしたちは目明しじゃないんだからおとよをお縄にしなくたっていいんだ。ころしをあばいて百五十両ぶんどることができれば万々歳だよ」  おえんは自分がいくらか興奮しているのをおぼえた。体のなかで血がざわめいている感じがある。馬屋としての闘志なのか、それともおとよへの対抗心なのか、自分でもさだかでなかった。      四  七月の三の午《うま》の日、おえんは浜蔵をつれて弁天屋をでた。町内の田町《たまち》稲|荷《いなり》へ参詣《さんけい》にむかった。  稲荷は商売の神で父の仁兵衛が毎月午の日にかならず参詣にかよっていたことから、おえんもいつとはなしにその習慣が身についた。よんどころない用事でもないかぎり、弁天屋のだれかをさそって田町稲荷にもうでていた。お供えにはかならず油揚げを持参してゆく。  おえんと浜蔵は田町一丁目のほうへむかった。田町稲荷は別名|袖摺《そですり》稲荷とも呼ばれている。そういったほうがとおりがよい。田町一丁目と二丁目とのあいだにあり、往来に面していて人が群集して袖が摺れ合うので、そういう呼び名がついた。  今日も、相かわらず人通りがおおい。 「人通りのおおいのは田町の繁昌《はんじよう》だから結構なことだけど、掏摸《すり》や物盗《ものと》りがおおいってのは迷惑だね」 「女の乳や尻《しり》をさわったり、袂《たもと》切りもでるようですから、お嬢さんも気をつけてくださいよ」 「だまってさわらせるもんかね。そんなやつは腕をさかさにして、へし折ってやるよ」 「少々やっとう[#「やっとう」に傍点]がつかえたり、鉤縄《かぎなわ》が投げられるからって、男をあまく見てはいけませんよ。世の中には信じられない馬鹿もいるんですから」 「お前から説教されるようじゃ、あたしも落ち目だね」
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