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「あなたが恐いのは自分が高い場所にいることじゃない。あなたが恐いのは、この夕焼けの空。自分の頭上になにもない、開けた空間が恐いんでしょう?」  僕はなにも答えない。無言のまま、彼女の指摘の根拠を考えていた。  屋上に出てきてからの僕の態度に、不自然な点があっただろうか。まったくなかった、とは言い切れない。たしかに僕は空を見上げるのが恐かった。屋根のない開けた空間が。  瞑の隣に腰を下ろしたのも、本当は植えこみの陰に隠れることで安心したかったのだ。 「めずらしい症例ね。高い建物の傍《そば》に近づけないバトフォビアというのは比較的よく聞くけれど。天空恐怖症《アストロフォビア》に近いのかしら。先天的なものではないのでしょう? 心あたりは?」  瞑がわずかに上体を起こした。乱れた髪が制服の胸元にぱらぱらとかかる。 「さあね」  僕は投げやりに返事をする。死体のような無気力な少女が、そんなことにこだわるのが不思議で少し面白かった。  彼女は気怠げな表情のままゆっくりと瞬《まばた》きをする。 「いいわ。あなたがその話を聞かせてくれるなら、今日は降りてもいい」 「そう?」  お礼を言うべきところなのかどうか迷って、僕は結局なにも言わなかった。  瞑も立ち上がろうとはしなかった。相変わらず遠い街を見下ろしたまま、壊れた人形のように動かない。僕は仕方なく腰を上げ、彼女が脱ぎ散らした靴下とスニーカーを拾い集めた。  その瞬間、すっと自然な動作で瞑は僕のほうに足を差し出した。どうやら靴を履かせろ、という意味らしい。僕は最初唖然とし、それから声を上げて笑いそうになった。女子高生に傅《かしず》いて靴を履かせる。そんな体験をしたのはもちろん生まれて初めてのことだ。 「立ちなよ、斎宮さん」 「瞑でいい。その呼びにくい名前で呼ばれるのは嫌いなの」 「じゃあ、瞑。立って」 「そんな面倒なことは嫌だわ。私はとても疲れているの」
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